SIer が業績悪化しているのに何も変わらない

SIer のなかの人は思考が止まってしまっているんでしょうか。

SIer 各社の業績が軒並み悪化しているにも関わらず、現場では新しい提案があるわけでもなく、それならどうやって業績回復のストーリーを実現するつもりなのかと思わされるような話がチラホラ。あとは、現状理解に乏しく需給関係が崩れつつあるにも関わらず、当然の顔で値上げ交渉をしかけてきたりする。バカなのかな、と思うわけです。

まずは状況整理

上場大手 SIer 各社の直近の状況を見てみます。

企業名 売上高 前年比 営業利益 前年比 来期予測 今年比
NTTデータ 1,142,940 100.3% 81,689 82.9% 1,200,000 105.0%
野村総合研究所 338,629 99.2% 40,077 80.6% 350,000 103.4%
伊藤忠テクノソリューションズ 290,391 94.5% 21,569 99.5% 300,000 103.3%
日本ユニシス 271,084 87.4% 7,105 44.7% 280,000 103.3%
CSKホールディングス 169,518 82.3% 4,176 - 160,000 94.4%
新日鉄ソリューション 152,158 94.2% 10,790 93.8% 156,000 102.5%
富士ソフト 141,682 85.8% 3,293 45.0% 142,000 100.2%
住商情報システム 127,317 94.8% 6,423 71.1% 135,000 106.0%
日本システムディベロップメント 34,933 84.0% 4,248 56.5% 37,400 107.1%
SRAホールディングス 34,053 81.5% 1,997 52.3% 35,500 104.2%

ほぼ減収減益で、営業利益については、富士ソフトを筆頭に半減しているところもあるという悲惨な状態。NTTデータだけは増収減益になっていますが、前年度はゆうちょなど銀行系の大型受注があったので、それでも売上高が横ばいだったということは、他社と傾向が異なるものではありません。

各社がそろって減収の要因に挙げているのが、企業のIT投資抑制にともなう受注減少。加えて、証券業向けのサービスを展開しているところは、業界自体の低迷でダメージが大きかった模様。流通系は堅調だったみたいですね。

インド・中国へのオフショアリングの更なる推進や、経費や外部委託費の圧縮など、ITゼネコンの多重構造を考えるに、涙なしには語れなさそうなコスト削減を行っているのも、各社共通です。敢えてここに関係ない話題を挟みますが、2009年度の全国企業倒産状況にあるとおり、情報通信業の倒産が6.7%増というのはリアルです。さて、そうしたコスト削減活動があるなかで、なお減益となっているのは、受注減少分がコスト削減効果を上回ったということ。いかに市場環境が悪いかが分かります。

SIer は変わらないのか

こうした市況下にあるものの、ほとんどの SIer が今期は 5% 前後の成長を見込んでいるのは、興味深いです。市況が回復し、クラウド関連事業が伸びるという見方なわけです。

確かに、大企業を中心にIT投資は底を打ったという見方もあるし、足元を見るとコスト削減の旗印のもとにプライベート・クラウドを推進し、導入した企業が増えてきているという事実があります。冷えきったIT投資意欲を、バズワードの独自解釈をもとに構築したソリューションで刺激して需要を生み出そうというあたりは、「いつもの感じ」で素晴らしい。この前まで Saas で大騒ぎしていたものを、一気にクラウドという上位概念で包み込んで一掃してしまう手法には惚れ惚れするわけです。そうしたなか、NTTデータがクラウドという単語より BizXaas という固有名詞で押しているのが、なんともクールです。

クラウドを標榜しつつ、SIer 根性はプラットフォーマーは目指さないし目指せない。その妥協点として着地したプライベート・クラウドでは、これまでの業務知識やノウハウは活きるかもしれないが、未来を作るわけではないと思うわけです。コスト削減効果はあるのかもしれませんが、例によってパッケージングを変えただけに過ぎないとも見えるわけです。

本質的な変化を取れないのは、SIer というポジショニングの宿命なんでしょうか。ソリューションのリパッケージングで延命していくやり方では、二番底は超えられないんじゃないかと思います。

稼働率は上げたいけど供給者目線

利益率アップは至上命題とばかり、SIer の外部委託費はさらに大幅削減とかいう話になっています。内製化傾向にあるユーザ企業にやられた仕打ちを、右から左に受けながすカツヤマー流。数年前の偽装請負禁止に次いで、二次請け・三次請けの会社からは、青息吐息が聞こえてきます。

大手 SIer にとっては、コスト削減効果を甘受しながら、受注減で低下している社内のエンジニア稼働率を上げられる施策ではあるものの、空洞化してしまったあとの社内で仕事を回せといっても回せないという、ウソかホントか区別つかない話が聞こえてくるなど、現場の混乱もなかなか。そこで安価なオフショアという選択肢になるのだろうけれども、ようやく落ち着いてきたと言われるオフショア開発も、最終的に下請け会社に回っていって、そこのSEがほとんどを作り直すなんていう、これまたウソかホントか区別つかない話も聞こえてきます。いろいろ心配です。

個人的に衝撃だったのは、そういう環境化にあって供給過剰で稼働率の下がっているエンジニアなのに、なぜか単価を上げようとかいう話が横行しているという話です。これは一次だけでなく二次請けやっているあたりの中堅どころでもそう。需給関係とか経済の仕組みは無視なんでしょうか。システム系は価格弾力性があまりないとは思いますが。

逆に三次・四次くらいをずっとやってきて、もはや売上が地べたを這っているソフトハウスさんなんかだと、びっくりするぐらい低単価で提案してきて、逆の意味で恐いなんて話も聞きます。それは赤字にならなければ良い、という覚悟の現れらしいですが、ぜひ各 SIer にもそういった姿勢を学んでいただきたく。

結局、言いたかったこと

SIer は自分のおかれた立場をちゃんと理解した上で、本質的な戦略を考えて実行して欲しいなと思うわけです。現状認識が甘いまま、サイズオーバーな提案をしようものなら、足元すくわれちゃうと思うんですよね。

プライベート・クラウドや仮想化によるコスト削減ソリューションは売れると思いますが、それはこれまで売れていたところには売れるし、売れていなかったところには売れないという話のような気がします。だから、中小 SIer が色気を出してクラウドサービスに入っても、ほとんど上手くいかないと思うわけです。ましてやグローバル化をや。

ぜひ某社には、きっちり考えてがんばっていただきたいと思います。

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